第2回 心理コロキウム資料                            6/26/2002
 

 

『援助行動研究の動向−不適切援助行動という視点から−』

中部大学人文学部心理学科 松浦 均
 
 

1.      社会心理学領域における援助行動研究の流れ

1-1 「キティ・ジェノビーズ事件」とLatane,B. & Darley,J.M.(1970)の研究

援助的行動が心理学の研究対象となった事件,援助行動研究の起源
       →傍観者効果(いわば援助が抑制される理由の探索) 

表1 傍観者効果   ラタネとダーリー(1970) 

今そこに困っている人がいて助けなければならないのに,そういう時に限って人は何もできないで見ているという状況が発生する.どんな要因があるか.
・刺激過多状況 
   多くの人間が同時に存在すると,多くの情報が錯綜して刺激が多い状況が生まれる.人はすべての情報を処理しきれず,一部の情報のみで対応し,適切な判断ができなくなる場合がある.
・モデルとしての他者の存在
   ある他者の行動はモデルとなり,自分の行動の判断基準になる.あいまいな状況では自己判断ができず,近くにいる他者が事態に対して何も行動しなければ,自分も行動しなくてよいという判断に陥りやすい.
・責任の拡散
   事態に遭遇した人数が多いほど,その事態に関わることで発生する責任分担量は相対的に小さくなる.責任が拡散して援助行動は起こりにくくなる.
・観客としての他者の存在
   自分の援助行動に注目が集まり,一種の監視状態になる.それにより失敗を恐れたり,不安になり,援助の行動が及び腰になる.

 1-2    援助行動の類型の研究  高木(1982) 

・寄付・奉仕活動の類型
・分与・貸与活動の類型
・緊急事態における救助行動の類型
・労力を必要とする援助行動の類型
・迷子や遺失者に対する援助行動の類型
・社会的弱者に対する援助行動の類型
・小さな親切行動の類型

1-3     援助生起の規定因

援助はどういうときに起きるのか

表2 規定因としての援助状況の特徴  Staub,E.(1979)  

・状況の曖昧度    明確なほど援助が起こりやすい
・援助の必要度    どの程度速やかに援助しなければならないか 
  ・援助責任の集中度  特定の個人にどの程度責任が集中しているか
  ・状況刺激の扇動度  状況刺激の強烈さの程度,その場から逃げだすことの困難さの程度
  ・援助の主導度    援助者が判断しなければならない大きさの程度
  ・援助出費と非援助報酬の大きさ  時間,労力といったコストの算定
  ・援助の社会的容認度  容認度が高いほど他者からの非難はない
  ・援助者と被援助者の関係の緊密度  緊密度が高いほど援助が起きる
  ・援助者の心理状態  ポジティブな気分の時ほど援助が起こりやすい

心理的過程の研究  Bar-Tal(1976),松井(1989)他
援助行動の意思決定に関するモデル(松井,1989)

1-4 援助者の属性の検討 

人口統計学的測度として  性別 年齢 親の職業 居住環境など

宗教的測度として     宗教心 教会への出席 宗教団体への所属など

パーソナリティ変数として 自尊心 社会的望ましさ 内的・外的統制
          社会的責任性 人生の満足度 共感性 愛他性など

1-5 共感性について

当初より,共感性の高さと援助行動生起の関連性については強い結びつきが想定されている.つまり共感が援助行動を促進する.
考え方としては,困っている人に共感すると不快になるのでそれを避けるためという利己的動機の説(Piliavin et al.1981)と,他者の視点に立って見たときに感情が喚起され利他的援助行動の動機を高めるという説(Coke et al.1978)などがある.

1-6 愛他性について

愛他性,愛他的行動.基本的には自分の利得を省みず,相手の状況がよくなることを純粋に期待して行われる行動やそのときの感情.
母子関係の研究 道徳発達の研究などからの流れ(発達心理学の領域)思いやりの気持ちがそのまま相手への援助的行動に結びつくとするもの.ただし社会心理学の中ではきちっと定義されていない.
順社会的行動とか向社会的行動ともいうときは,純粋な利他的動機にもとづく相手のための行動で,反社会的行動と区別している.例として相手のために代返をするとか,試験中にカンニングペーパーを回すなどは,利他的かもしれないが,これは反社会的行動.

いずれにしても援助者主体の研究が優勢であるということ

援助者側の援助意図重視の立場,偏りはあると思うが,それはそれでよい.しかしながら,援助行動は,通常のその他の行動と比べると頻度も高くなく,明確に躊躇することもあるし,やっても上手くいかないときもある.相手との二者を強く意識することもある.それらはすべて相手があってこその話であり,相手との相互作用そのものであると考えると助けられる側のことをもっと考察してもよいはずである. 

2.被援助者の視点による検討の必要性

2-1  援助行動を二者関係の行動としてとらえてみる

援助状況は助ける側と助けられる側の両者が存在する
「援助者」と「被援助者」それぞれの立場で考えると同じ状況でも違って見えることもある.
「援助者」と「被援助者」それぞれの思いが交錯して,疎通しないこともある
 こんなに困っているのになぜ気づいてくれないの?
   ・それほど困っているようには見えなかった
 助けてもらうのは有り難いけど,ちょっと複雑な気分
   ・助けてあげているのにどうして素直に喜んでくれないの?
 早く助けて!
   ・助けてあげたいけど,どうすると助けられるの?

2-2 二者間の社会的交換,資源の交換という観点の導入

衡平理論 援助行動一時的な不衡平状態をつくる
  援助を受けた場合は,利得過剰の状態
  恩義,心理的負債感,返報行動の研究  西川(1986),相川(1985,1988,1995)

衡平回復の方略
  親密な関係は互恵規範がはたらき通常の頻繁なやりとりがそのまま資源の交換
  お互い様的な意識で,交換率はそれほど意識しない.返報行動もまたの機会まで延期
  初対面,知らない人,親戚知人には返報返礼規範で臨むため負債感払拭の動機が強く働いて,すぐに返報行動をする     松浦(1992)

返報時の判断の難しさ
  返報しても助けられた側が弱い立場にあることには変わりない
  返報量がなかなか決められない(冠婚葬祭のように合理的慣習のあるものも)
  「命の恩人」「自分のために犠牲になってくれた人への恩」は無限大

3.援助行動の成立

3-1  援助行動は何をもって(どの時点をもって)「援助行動」と考えるべきか

援助行為生起時,あるいは援助行為完遂時 2通りの考え方あり援助行動によって当該社会が改善されることを期待するという観点に立てば,援助行動完遂時をもって援助行動成立と考えるべき
加えて,援助行動完遂を判断できる立場にあるのは被援助者の方である   

例:

医療,看護,介護の場面  患者の状態が向上しない限り援助は成立してない
災害救援ボランティア活動  被援助者が助かってない限り,救援活動は完遂しない
この場合は,完遂しない場合もある.失敗とまではいかなくとも成功とはいえない

   行動の結果に関する時間範囲の問題

援助成功,不成功は即時的な行動結果のみが問題にされやすいけれど,長期的に見ると被援助者のためになることは援助行動にあたらないのかという指摘がある     

例:

親が子供を叱るのは,長期的に見てその子のためになることが多い

身障者介護などに見られる過保護的な援助行動(後述の車椅子青年の話)で結果的には自立阻害にあたり,援助になってないという場合

二者関係を軸に援助行動を見た場合,被援助者側がことの本質を決定すると考えてよかろう
援助者中心の考え方から,被援助者主体の考え方に転換すべき
 

4.援助行動が起きない場合や援助行動をしない場合  

4-1 援助の状況的な抑制要因(5因子)  高木(1987)

・援助規範からの意図的な逸脱とそれに伴うサンクションの軽視

自分に原因があるのだから自分で何とかしなさい.
助けても得るものはないし,助けなくても非難されない
・援助または被援助の好ましくない経験
他者を援助してよい気分になったことない.他の誰かが何もせず,自分が援助して失敗したといった経験.援助されてかえって傷ついたという経験
・援助者と被援助者の好ましくない人格的な特徴
援助者がもともと利己的で,被援助者を思いやることができない
被援助者の外見,人格特性などが原因で援助意思を誘発しない
・援助責任の分散
傍観者効果のところで説明,他の誰かが既に援助行動を始めている
・援助能力の欠如
援助者が援助する能力や資格が自分にはないと思った場合

4-2 その他の抑制要因と考えられるもの

(援助状況に入る前の主に援助者側の特性としての要因)  

 客観的に見て援助が必要な事態であっても,それが援助事態かどうか判らない

対人関係理解の不足,対人行動スキルの不足,状況把握力不足
もともと冷淡なパーソナリティ,他者との相互作用を忌避する傾向がある場合
共感性,思いやりの感情,道徳観,倫理観といったものの欠如

4-3 援助経験との関連

援助経験がないので,援助者側に回ったとき援助方法がわからない
経験はあるが,そのとき失敗して,次の場面では抑制される
経験が自分とってにポジティブな評価をもたらし,次の場面で援助可能性が高まる
自分に対する援助成果の検討    妹尾・高木(2001)
経験がないことの悪い連鎖 援助しない社会の形成

4-4 援助者と被援助者の関係性の確認

援助事態に参加することで,諸々の煩わしさを背負い込むことになる
援助事態に遭遇して,援助義務あるいは援助責任規範との関連を照会する
関与することで責任が発生するのは避けたい(責任回避),
援助する立場にないと判断する(援助すべき人が他にいるはず)
援助行動に関する諸々の社会規範に組み込まれないことを狙う 
 

表3  援助行動に関わる社会規範

社会的責任規範 人は自分に頼ってくる相手を助けるべきである
互恵規範 人は以前に助けてくれた相手を助けなければならない
またその相手を傷つけてはならない
衡平規範 個人間の相互作用では,相互作用のインプットとアウトカムが不均衡であってはならない
贈与規範 人は見返りを期待せず,その行動の価値に基づいて進んで贈与しなければならない
補償規範 何らかの危害や損害を与えてしまった相手にはお詫びをしなければならない
非関与規範 人とは積極的に関わらない方がよい

一般的に,非援助の意思決定の方が援助決定よりもなされやすい.

躊躇した際に,頻度的には「非援助」が多く選ばれる.もちろん助けなきゃいけないときには,腹をくくって行動に出るけれど,たいていは躊躇する間もない一瞬の判断,最悪の場合,自ら命を落とすこともある(例:JR大久保駅ホーム転落事故).大きすぎる代償がまた,非援助を選択させる.

5.不適切な援助行動(今後の展望あるいは課題として)

5-1 ボランティア活動のなかの「不適切援助」の具体例 

阪神大震災ボランティアの報告,ODA海外援助の具体例,その他

 表4   不適切な援助行動の具体例(その1)

阪神大震災のときの救援事例で
  ・水道が復旧してないのに大量のカップラーメンを送る
  ・この機会にとばかりに家庭で不要になったものを救援物資として送る
  ・現地への輸送手段が途絶えているときに家具などの大型救援物資を送ろうとする
  ・被災者の希望の品物を,自宅まで取りに来いと言う
  ・ボランティアで駆けつけたが,自分の寝食の手当ができず,逆に被災者に世話になる
  ・ボランティアの仕事がなくなっても,そのまま長期間居着いてしまって,逆に被災者に世話になった.(被災者からは「帰ってくれ」とは言えない)
  ・地震当日,取材用ヘリが,被災した火災現場に降下してきて,鎮火しかけた家屋を逆に丸焼けにした.復旧活動をしていた人が,降りてくるなと手を振ったことが,降りてこいと勘違いされた.結果的に,この家屋の人は死亡した
        

表5  不適切な援助行動の具体例(その2)

ODA援助などで,救援物資(医薬品,食料品など)が現地に届けられたが,日本語表示で,現地の人には何かわからないので使えず,放置されている.
PKO活動などで,難民キャンプにおける給水活動の際に武器を携行しながら,難民を誘導する.
お使いを頼まれて買い物に出かけたが,指定された品物がなかったので,自分の判断で別のものを買ってきた.その品物は,既に手元にあって必要のないものだった.
外国人に銀行の場所を尋ねられたので,教えてあげたが,銀行はその時間は既に閉店しており,その場で別れた.
廃品回収で,協力のつもりで出した古新聞や古本がひもで綴じてなくて散乱している.
病人のお見舞いで,本人は食べることができないのに,生の果物やお菓子を届ける.

5-2 ボランティア活動の特徴 

援助行動でもあるけれど,少し異なる側面がある

自発的行動であること
  必ずしも援助要請がないということ
  援助方法を自分で考えること
  援助内容は自分でできる範囲のこと
  第三者は関係ない(勧誘しない,されない)
  随時活動,任意活動であること
    行動の決定は自らの責任で行われること
    止めるときも自らの責任で決定される
    止めどきの難しさ,ボランティアのつらさ 金子(1992)の指摘
  援助相手の自立支援という立場
    PKOスウェーデン隊の事例  車椅子の青年の事例
    どこまで援助することが最大の効果をうみだすか
    援助が自立を阻害することに注意が必要 

5-3 不適切援助とは

「援助の質の高さ」という考え方  伊東(1996)

質の高い援助とは「被援助者にとって望ましいものと見なされ,かつ,被援助者の自尊心の支えになるような援助」
質の低い援助とは「被援助者にとって望ましいものとは見なされず,かつ被援助者の自尊心への脅威となるような援助」

不完全な援助行動

援助効果がない援助行動,あるいは低い援助効果しか期待できない援助
中途半端に終わる援助行動

利己的すぎる援助行動

援助動機が利己的で,援助効果よりも援助成果(援助行動により援助者としての自分が得ることのできる何か)しか考えていない援助 援助者の自己満足だけが残るもの
ありがた迷惑など,被援助者の立場からの検討が欠落しているもの

援助目的のずれ

援助動機はまあ適切であるが,援助目的や援助方法がずれており,被援助者の欲している援助とは結果的に異なる援助

援助のやりすぎ(過剰な援助)

援助動機は適切であるが,相手が援助を断りにくい状況,相手が援助を必要としない状況で,ひたすら援助行動を続けること
いわゆる「おせっかい」もこれにあたるし,「過保護」もこれに該当する
文字通り過剰な援助で,相当な負債感を与えてしまうような場合

不適切援助行動の責任性について

不適切な援助行動が原因で状況が悪くなった場合,一見望ましく見える援助の行動であっても,その行動の責任は発生する.
助けられて弱い立場にある被援助者は,状況が悪くなったことは言い出しにくいが,そのままでは状況は改善しない.
助ける側において,自分の援助がどのような効果をもたらしたのか,逐一確認,評価するような意識をもてるような仕組み(これは教育によってできるようになるのか)を考える必要がある.
援助行動がごくごくスムーズに,被援助者が望む適切な援助ができるような社会を作る上で,援助者も自分の行動の帰結を省みる習慣が根付いて欲しいと思う.

ボランティア活動が活発になるにつれて,不適切な援助行動が顕在化してきた気がする援助者側の援助行動は総じて望ましい行動であるから,援助者の責任は追及しづらい空気はあるが,その行動が期待しない結果を招き,さらに被援助者に不利益がもたらされるのであれば,それはもはや援助ではない.むしろ行動責任を追及されなければならない   松浦(1996)
 
延長上にある諸々の気になっていること
看護やケアにおける倫理観  医療事故の後始末  医師や看護者の責任  権力者の責任の取り方
正義の問題  交通事故における加害割合  交通被害者のあまりにも弱い立場  
事故事件被害者遺族のあまりにも弱い立場  責任の意味そのもの・・・
 

参考文献

相川充 1985 援助に対する被援助者の反応に関する研究(1)-恩義の大きさによる被援助事態の分類- 日本心理学会第49回大会発表論文集,737.

相川充 1988 心理的負債に対する被援助利益の重みと援助コストの重みの比較心理学研究58,pp366-372.

相川充 吉森護 1995 心理的負債感尺度作成の試み 社会心理学研究,11.pp63-72.

Bar-Tal 1976 Prosocial behavior ?Theory and research. New York: John Wiley & Sons.

伊東秀章 1996 援助行動の質 ?援助の質の高さと関連する性格特性とジェンダー 実験社会心理学研究.Vol.36 pp.262-272.

金子郁容 1992 ボランティア もうひとつの情報社会 岩波新書

Latane,B. & Darley,J.M.  1970  The ubresponsive bystander: Why doesn’t he help? New York: Appleton-Century-Crofts.   竹村研一・杉崎和子(訳) 1997 冷淡な傍観者-思いやりの社会心理学- ブレーン出版

松井豊 1989 援助行動の意思決定過程に関する研究 東京都立大学博士論文

松浦均 1992 援助者との関係性が被援助者の返報行動に及ぼす影響 名古屋大学教育学部紀要(教育心理学科) 39巻,pp23-32. 

松浦均 1996 ボランティア活動の社会心理学的考察 『対人関係の社会心理学』 長田雅喜編 第6章 援助行動と攻撃行動 第1節 pp163-175.

西川正之 1986 返礼義務感に及ぼす援助性意図,援助成果,および援助出費の効果 心理学研究,57,pp214-219.

妹尾香織・高木修 2001 援助者に及ぼす援助行動経験の効果(1) 日本社会心理学会第42回大会発表論文集 346-347.

Staub,E  1979  Positive social behavior and morality. Vol.2, Socialization and development. New York : Academic Press.

高木修 1982 順社会的行動のクラスターと行動特性 年報社会心理23巻 135-156.

高木修 1983 順社会的行動の動機と構造 年報社会心理学24巻 187-207.

高木修 1987 非援助動機の構造とそれに基づく非援助行動の特徴づけ 関西大学社会学部紀要 19.Pp27-49.
 

以上

                               
                               
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